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ちょうど1年ほど前のヒグラシの鳴く、夏の終わりの頃の出来事だった。
和海は部活を終えて暗くなりかけた部室で部員達と雑談しながら着替えていた。
「腹減ったなー。喉も超渇いたし、ファミレスでも行くか?」
チームの要でもある亮がうががう。
「良いねー。ドリンクバーでコーラ死ぬほど飲みたいっ!」
聡が即賛同した。
「カズはどうよ?」
亮が珍しく改めて誘ってきた。
「ダメダメー。和海君はお母様の超豪華ディナーが待ってるからっ!ね?」
史明がいつものように皮肉を言う。
「よっ!医者の息子!今日はフォアグラか?」
確かに和海の父は医者だったが、大学病院の勤務でそれほど特別裕福なわけでも無かった。
また、父は兄の拓海や和海が医者になるために勉強することだけを彼らの幼少から強いてきた。
「サッカーやるひまあるんだったら方程式の一つでも解け。」
父の口癖だ。
そんな父を和海は尊敬していなかったし、和海は父が医者であることを皮肉で言われることが一番嫌いだった。
「悪いけど、今日は帰るよ。」
「今日も。だろ!全く付き合い悪いな。カズ君はー。」
史明がどつきながら嫌味を言った直後に携帯が鳴った。
「ほらほら、お母様からお電話ですよー!」確かに母さんからの着信だった。悪いタイミングだ。
「なんだよ!」
ちょっとキレ気味に電話に出た。
「か…和海…、たすけて…。」
電話の向こうで母さんが声を絞り出すように苦しそうに言った。
「母さん?大丈夫!?母さん!母さんっ!」
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