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あの日、舞い込んできたものを、受け入れることにした。
受け入れ、捕らえ、閉じ込めて。
そう、わたしはあの日。
魔王を手に入れたのだ。
「体の調子はどうだい?」
数歩近づき、イシュカは眼前の存在にそう問う。
その男、アレイストは皺一つない漆黒の装を纏った体をもたれたまま、ただこちらを見つめ。
どこかけだるそうな表情、しかし目だけは熱く。別に答えは期待してなかった。だが。
「……相変わらず最悪だ」
珍しく、今日は返事が返ってきた。
低い、しかしよく透る声。
一瞬戸惑い、思わず彼の顔を凝視してしまったが、それは刹那で、すぐにどこか困ったような笑みでそうかと呟く。
「確かによくはないだろうね」
「……なら聞くな」
「食事は後で持ってくるけど、他に何か欲しいものはないかい?」
「……それを、私に問うのか?」
くつ、と彼は小さく笑った。嘲笑じみた、その笑い。
次瞬、まるで魂をも凍らせるかのような鬼気が、彼女を襲った。
さらに激しさを増す、金の双眸。
狂おしいほどの、憎悪。
「貴様はやはり残酷な女だ」
冷たいほど整った容貌が、冷たく笑う。身を凍らすほどの冷たさ、魂を砕くほどの激しさ。魔性の、男。
「……魔王に言われると流石にきついね、その言葉は」
しかし、その鬼気にも微塵も臆さず、少女は相変わらずも笑い。
「けれど何を今更。貴方も知っただろう? 人間こそが最も残酷なのだということ」
それは花のような笑み。
だが。
「……わたしは人間の女だ」
その花は、毒花。
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