二章

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 クラウディアを混乱の渦におとしめ、姿を消した魔王。  その存在を手に入れたのは、五ヶ月余り前、つまり彼が消息を絶って一ヶ月も経たぬ頃であった。  その頃といえば国はまさに混乱を極め、今よりももっとゴタゴタしたその状況の中、うんざりして城を抜け出した時が全ての始まりだった。  事件以降、運命の邂逅を果たしたのは、この地下室があるこの森。  傷つき倒れているアレイストを、偶然通り掛かった彼女が発見したのだ。  余りにも悲愴なその時の様を、今でも覚えている。  これまで、どう生き延びてきたのであろうか。蒼白で乾いた肌、痩せた体躯、全身には乾燥した血液がこびりつき、完治していない化膿した傷からは、未だ血と膿が滲み出ていた。  闇色の髪は艶を失い、美しく、精悍だった容貌も……嗚呼。今は全くの血の気を失い、幽鬼の如く。  そこには、一瞬にして両親を殺した、美しくも残酷なあの魔王の面影は微塵も残ってはいなかった。  はっきり言って、この約一ヶ月生きてこれたことが不思議でならない悲惨な有様で。  ……けれど。    やはり、そう。あの目。  あの金の目だけは、激しさをそのままに輝いていた。
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