二章

5/8
前へ
/219ページ
次へ
「こんなものの性で」  晒された肌、彼のその胸には。  毒々しいとさえ感じる、不可思議な紅い紋様が刻まれていた。  封魔の印、という魔術がある。  それは魔の眷属の力である魔力を封じる、もしくは対象の魔族そのものを封じ込む術だ。  アレイストの胸に刻まれている紅い紋様は、正にそれであり、しかも高等な術の類である。  それは優秀な術者の血と命を引き換えに発動させる禁呪。下手な魔族なら、その術の重さに耐え切れず、封じられるどころか跡形もなく滅びてしまうほど強力な。  しかしそれほどの禁呪でないと、この男を封じることなどできなかっただろう。やはり魔王と言う異名は伊達ではないらしい。  この封魔の印は、彼を手に入れた時には既に刻まれていた。おそらくクラウディアが攻め入った、あの戦いのさなかに掛けられたものなのだろう。  人を遥かに逸脱した生命力、回復力を持つ魔族にも関わらず、彼を発見した時にもまだ戦いの傷が癒えていなかったのも、そう推測すれば頷ける。  禁呪は魔力のみならず、生命力、回復力すら著しく奪ってしまうのだ。  両親を殺した時も、彼は魔力を一切使ってはいない。それは魔族特有の逸脱した身体能力……つまり力技のみである。 「魔力を封じられた今の貴方はただの人間と変わらない。……まあ、その身体能力は別としてね」
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!

785人が本棚に入れています
本棚に追加