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花の様な、光の様なあの少女が去った後、再びこの部屋に純然たる闇が静寂と共に舞い戻る。
死神さえも恐れるようなその闇の中、魔王は相も変わらず優美に鎮座し。
思うのは、あの少女。
美麗というより秀麗。知的な容貌、内面の怜悧さをそのまま宿す瞳の、あの少女の事を。
歳の割には落ち着いた、けれど鮮明に響くあの凛とした声がまだ耳に残っている。
この名を紡ぐその声が、今だ頭に響く。
「……イシュカ」
胸の奥、沸き上がる苛立ちに彼は無意識にその名を口にしていた。
一体何を考えているのか解らない。
親を殺した男を擁護し、捕え、閉じ込めて。
最初は復讐が目的かと思っていた。けれど彼女は傷ついたこの体を、今まで懸命に介護してくれた。親殺しである、この男の体を。
そこに殺意や憎しみは無かったように思える。同様に憐れみや同情、博愛じみた感情も、また。……けれど。
国王である父親を殺した性で、結果的に彼女をうだつの上がらない状況に追いやったことに対しても自覚はあった。
傷つき、放浪していたあの当時、風の噂で王位継承権が異母弟に移ったという話を聞いた。第一子を重んじるあの国でその異例……詳細を聞かずとも検討がつく。
故に憎まれど、救われる覚えはない。
ならば恩を売って、この身を利用するつもりか。だがそのような浅はかな考えで動いているようにも見えない。少なくとも、今まで接してきた中では。
故に余計解らない。というより読めない。彼女の真意が。意図が。
「イシュカ 」
再び、名を呼ぶ。
「イシュカ・レイ・クラウディア」
囁くよう、けれど熱く。
それはまるで、愛する者を求めるような響き。
けれど、含まれる感情にはそんな甘さは無い。
苛烈で熱く、紅き闇の如く憎悪と殺意。……そして。
「……哀れな王女よ」
心中を占める黒い乱流の中、僅かに含まれる苦みは、同情じみたものなのか。
「……貴様を殺してやりたい」
この衝動は、その苦み故なのか。
それともただ純粋な殺意によるものか。
乱流す、混沌とした感情に、己の真意すら解らない。
……だが。
殺したいほどに、蹂躙したいほどに求めているのも事実だ。
この身が死を求めるように、あの少女を求めているのも自覚を伴う事実であった。
「……愚かな」
魔王は笑う。自嘲、だが、優美な。冷たくも美麗に。
純然たる闇の中、純然たる闇の存在が、笑う。
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