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……しかし、暇すぎる。
ある晴れた昼下がり、いつもの様に自室の窓際に腰掛け、イシュカは頬杖をついて外を見下ろしていた。
城は相変わらず騒がしい。いや、騒がしすぎる。
「しかし、あれだね。暇過ぎて死にそうだよ」
心底、というほどの溜め息をつき、彼女は呟く。
その言葉は忙しすぎて死にそうな城の者が聞いたら、確実に反感を買っていただろうが、そんなこと知った事ではない。大体自分を蚊帳の外に締め出したのは、彼らなのだから。
国の事、政治の事はどうぞそちらで。もう自分には何一つ手を下す権力も権利もない。
自分は政略結婚のお相手が決まるまで、お飾り人形よろしく、大人しくしておけばいい。ああ、もうどうにでもしてくれ。
次々に投げやりというか丸投げな思考を巡らせ、やさぐれていると、眼下に備わる外抜け通路に人影が見えた。
それは遠くからでも確認できる、無駄に豪華な装を纏った女と少年。
異母弟であり現クラウディア国王エリック・ライト・クラウディアと、その母でありイシュカの継母に当たる女性であった。
優雅に歩く二人を見詰め、彼女は目を細めて微笑んだ。
「可哀相に。すっかり偉くなってしまって」
ふふ、と笑みを零して彼女は囁く。それは嘲笑。けれどその紫水晶の双眸には、僅かな憐れみ。
急遽国王に押し上げられたエリックは、イシュカの6歳下、彼女が17歳だから11歳になる。
若き王は珍しくはない。が、大抵は周りのいい操り人形となる。余程聡明な逸材なればそういう事態は免れるであろうが、はっきり言って彼は凡人とかわらぬ、と言うよりも普通の歳相応の少年だった。
彼に安定した政治は行えるか否か、明らかに後者。
しかし行わなければならないのだ。操り人形としても、国の、城の人間の犠牲になったとしても。
王のみが纏える色、彼が纏う紅の装は、どこか血の色に見えてならなかった。
「何故自分は王となるべく生まれたのか」
彼女は笑う。
「何故自分は王女となるべく生まれたのか」
その声は凛と響き。
空気が揺れる。風が舞い、銀絹の髪が流れた。
「人はそれを運命と呼ぶけれど……くだらない」
頬をくすぐる髪を指でかきあげ、吐き捨てて。
「ただ、ついてなかっただけだよ。……だから」
どうでもいいし、どうにでもなればいいのだ。
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