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全てを失った。
いや、奪われたのだ。
胸を占める灰色の虚無感、そこに開いた穴を埋めるように絡み付くは、熱を帯びた有刺鉄線の如く紅の呪詛。
死すらも届かぬがの如く闇の中、ふいに意識が浮かびあがる。
重く、覚醒を拒むまぶたを上げ、眼前の闇を見据える双眸が、ゆるりと扉があるであろう場所へと向けられた。
ああ、彼女が来る。
美しく、無邪気な、それ故に残酷な少女が。
名を呼ぼうとした。今までに幾度となく紡いだ、幾度となく憎しみを抱いたその名を。
だが、声となり言葉となる前に、ふつと沸き上がる胸の痛みに口を閉ざす。
変わりにくつくつと嘲笑じみた笑いを漏らし、細めた目で再び眼前の闇を見据え。
やがて扉を開け放ち、この闇へと足を踏み入れるであろうその者を、ただ静かに迎えようとした。
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