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殺して欲しい……殺したい。
紅の呪詛が邪魔をする。この身が死を求めるように、あの少女を求めている。
だが求めて何を望む?
己の衝動、その理由すら判らない。ならば。
一度求めるがまま、手に入れてみようか。
死も、あの少女も。
……さて、行くか。
見上げた月は美しく輝き、その光の粒子は細やかに。
窓の外から舞い込んでくるそれに目を細め、王女は笑った。
傍にある小さな机の上には一人分の食事。
闇に閉じ込めた、あの男の為のものだ。いつもこの時間と朝昼に、城の料理人にこっそりと作らせている。その際の口止め及び無検索の対価に金を握らせてはいるのだが。
イシュカはアレイストに対し、出来る限り不自由のない生活を与えていた。
あの地下室も、暗闇なのを除けば人一人暮らせる造りで、家具や衣服はおろか寝室、浴室まで作らせてある。勿論、内密にだ。
しかし、いつまで続くかは解らない。いつこの異様な行動が、全ての露見に繋がるか。
何せ今の自分は敵だらけなのだから。
今の彼女の現状を見れば分かるだろうが、イシュカはエリックの母である側室の女性とうまくいっていなかった。それは向こうの一方的な嫌悪にすぎないのだが、やはり正室の娘であり次期女王として扱われていた時代の名残であるから仕方ない。常に仇でも見るかの如く視線を向けられて来た。どう足掻いても我が子を次期国王に出来ぬ悔しさ、憤り。
だがそれが一転、魔王による以下略だ。
彼女にとっては何たる好機会。それはもう巧妙な手口でイシュカは蚊帳の外に追いやられてしまったわけで。
「バレたら大変だろうね、きっと」
いや、バレたら大変どころか絞首刑ものだ。
国を混乱させた魔王を飼っているなどと知れたら。
……だが。
「……その前に、成せばいい」
その言葉は、揺るぎなく。
何故、危険を冒してまで親の仇である魔王を捕らえ、生かし、そればかりか不自由なき待遇まで与えているか、皆が首を捻るところだろう。
ただ単に気まぐれだとか、悪趣味な暇潰しと言うわけではない。そこには確たる理由がある。
「後少しなんだ。だから」
……だから。
全て終われば、後はどうでもいい。国も、自分でさえも。
どうでもいい日常、その中で、唯一どうにかしたいと思ったのだ。
それを成せたのなら、もはや全てに未練などない。
「……さあ、行こうか」
彼女は相も変わらず、可憐に笑う。
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