785人が本棚に入れています
本棚に追加
闇を捕らえたつもりで
……闇に、囚われる。
「……貴様を殺してやりたい」
食事を持って部屋に入ると、開口一番そう言われた。
「……いきなり直球かつ激しいね、貴方は」
恐怖よりも呆れが混じる驚きが先にきて、ついつい溜め息が零れる。
「そんな事を言って、いつも実行はしない」
松明をくるくる回しながら、イシュカは持ってきた食事を机に置いた。
アレイストはそれを一瞥しただけで、手をつけようとはせずに長椅子にもたれたまま。
いつものけだるそうな態度。それは胸の呪詛によるもので、魔力を封じられた彼は、何をするにも億劫そうだった。
「いつものように、食べるまで出ていかないよ」
悪戯っぽく笑って、彼女は彼の横に腰掛ける。かなり嫌そうな顔をされた。
「貴方、そういう顔をすると人間みたいだね」
そう言うと、嫌そうな顔がもっと嫌そうになる。と、言うか険しくなった。ついでにじんわりと殺気が全身から滲み出る。
また首絞められるかな、と距離を置こうとするが、意外にもすぐに殺気は消え、またまた意外にも彼は食事に手を伸ばし始めた。
少し驚いたが、すぐに微笑んでその姿を眺める。
今はこうして素直に食事を取ってくれるようになったが、前はそれ一つするにも苦労した。
死にかけた体にも関わらず、以前の彼は全てを拒否していたから。
食事はおろか、傷の手当てもさせずに、血膿が流れだす傷口。触るなと全身で拒絶して。
何度殺されかけたか解らない。けれどそれでもイシュカは彼を生かそうとした。己の体を傷つけながら彼の体を手当てし、暴れる彼に無理矢理食事を口に押し込んだ。
しかし、それが非力な人間の娘にできたほど、彼女にろくな抵抗もできないほど、彼は衰弱していたのだ。
よく生き延びたな、とイシュカは心中で呟く。
よく……生きてくれたな、と。
「……何を見ている」
そんな回想をしながらみつめていると、アレイストはまた嫌そうな顔で睨みつけてきた。
ふと現実に引き戻された彼女は、けれどそのまま彼を見詰めて可憐に笑う。
「貴方が綺麗だから」
生きる物は美しい。
だから。
もう少し、後少しだけ、生きる意志を、その姿を。
もう少しで、全てがうまくいくのだから。
どうにか、したいんだ。
……だから。
最初のコメントを投稿しよう!