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全てを失った。
いや、奪われたのだ。
緑豊かな国、クラウディア。そこは一年中温暖な気候に恵まれ、豊富な資源と魔導学に長けており、その物資や優秀な魔導師等の人材を輩出して栄えた、豊かな国である。
その国の象徴、中心に位置する美しき城は、汚れなき白亜。
だがそれは、相も変わらず優美な姿で街を見下ろしているにも関わらず、堂とした姿とは対照的に、内部は混乱を極めていた。
外壁と同様、目にまばゆい白亜の壁に覆われた内部では、喧騒と焦燥が入り乱れ、その乱流によって生まれた緊張の空気は人を、しいては城全体を覆い尽くし毒している。
切れてしまいそうな程に張り詰めた糸が幾つも張り巡らされているようだった。時折飛び交う罵声じみた声がその糸を揺らし、聞いた者を、吐いた者自身をまた苛立たせる。静寂と喧騒の、悪循環。
そんなある種殺気じみたその雰囲気の中で、ぼんやりと窓の外を見つめる少女が一人。
腰までも達する長い銀絹の髪と、紫水晶を思わせる双眸。それは怜悧な輝きを宿し。
しかし、その整った容貌はどこかやる気がない。
「……くだらない」
その空気に不釣り合いな表情もさることながら、紡いだ言葉も不釣り合いこの上ない。
その様子を見た城の関係者なら、憤慨し、咎めているところだろうが、生憎彼女にそんな大それたことができる人間は少数でしかいないだろう。
と、言うのもこの少女、クラウディア国国王の第一王女、イシュカ・レイ・クラウディアその人であるからだ。
一国の王女にそうそう意見できる者など少ない。特にこの混乱下だ。保身に走った者も少なくはない。利己的な愚か者達が、彼女に一体何を言えるだろう。
やがて窓の外、眼下に見える、何やら口論しながら歩いている城の重臣達の姿に嫌気が挿したかのよう、王女は窓を閉ざし、そのまま自室を抜け出した。
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