始章

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     全てを失った。  いや、奪われたのだ。      だがそれは、誰かの意図でとか、誰かの手によってもたらされたという訳ではなく、様々な要因が重なり絡み合って起こった結果であり、その結果論でしかない。それは彼女自身分かっていたし、自覚していた。 「ただ、ついてなかっただけか」  イシュカは半ば自嘲じみた笑みを浮かべ、真っ直ぐと前を見つめたまま呟く。 「……でも、失ったばかりじゃないんだよね」  人生うまく出来ている。それが本人にとって吉か凶かは別として。  彼女は全てを失った。だが、ただひとつ。  ただひとつだけ、手に入れたものがあった。  しかしそれは、誰かに与えられたわけでもなく、自ら手を伸ばして手に入れた訳でもない。  ただ偶然、何の前触れもなく舞い込んだ、と言うほうが正しい。  偶然にも拾い上げたものであるが、それはあまりにも重要かつ巨大すぎるもの。  はっきり言って、この少女の手には余りすぎるものであった。  ……けれど。  彼女はあえてそれを受け入れた。 あまりにも容易に、その手で拾い上げた。  不条理な、運命という不確かで残酷なものを受け入れるよりかは、遥かに簡単だったから。 「もう、どうにでもなるといいよ」  どうでもよかった。そう、自分でさえも。  故に正しさも誤りも、それによってもたらされる結果すら、どうでもよかった。  しかし、これだけは言えるのだ。  選んだのは、自分の意思。  それだけは、常に自覚していた。
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