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まるで黄泉へと続くような闇の地下へと進むと、古いが堅固な鉄製の扉に突き当たる。
イシュカはその鍵穴を松明で照らし出し、胸元に仕舞っていた鍵を取り出してそこに差し込んだ。
回す前に一度手を止め、深く息をしてから鍵を開ける。
……此処には毎日訪れていた。けれど。
それでも今だ胸をやんわりと締め付ける緊張、そして……。
ふ、と彼女はまた微笑むと、その扉を開け放つ。
明らかに空気が変わった。
扉の先に広がるのは、一層深く、重い闇。
純然たる闇とは、きっとこの空間のことを言うのかもしれない。飲み込まれそうな松明の火を掲げ、イシュカは真っ直ぐと闇の先を見据え。
やがて、そこに有るその存在を確認すると、微笑みを一層深くした。
だが、その中には僅かな困惑が含まれ。
「……いつもそうやって睨むのはやめて欲しいのだけれど」
その言葉はまるで独り言のような響き。
それが向けられたその存在も、口を閉ざしたまま、闇に静寂が戻り。
嗚呼、と。心の中で呟き漏らす。
相も変わらず、なんて激しい目をするのだろう、と。
息が詰まるほど冷たいくせに、焦がれるほど熱く、射抜くかのように鋭いその視線。
闇に溶け込む黒髪の間から覗くその人外の双眸は、いつだってこう言っている。
……殺して欲しい。殺したい……と。
「結局貴方はどうしたいんだい?」
イシュカは笑みをそのまま、問い掛けた。
その柔らかな微笑とは裏腹に、刺を有す低い声で。
「まあ、どうでもいいのだけれどね。アレイスト」
変わらず突き刺さる視線。それをたやすく受け止め、彼女は笑う。
闇の中、優美に長椅子にもたれてこちらを見据える、美しき魔王をみつめたまま。
アレイスト・グレイ・アルファード。
己の統べる国を失い、クラウディア前国王とその后を殺害したその男が、そこにいた。
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