第1幕

8/10
前へ
/296ページ
次へ
 手元の懐中時計を見る。時間は十分間に合いそうだ。 「ありがとう、朱里」  抱えられたまま、頭を撫でると、嬉しそうな表情。幼い頃と同じ、あどけない顔。 「もう、下ろしてくださいまし!」  足をばたつかせる白亜を降ろすと 「行って、きます」  朱里は兵舎のほうに駆け出して行った。朱里の姿が見えなくなってから、話をきりだした。 「…それで、どうしたの?白亜。用があって来たのでしょう?」  よく白亜は城を抜け出すが、街をうろつくか、茶希の研究所に遊びに行く。私達の家に、朝から来るなどあり得ない。 「そうなんですの!!酷いんですのよ、お父様!!!」 …興奮した様子の白亜。この後、だいぶ父への不満、愚痴を交え、かなり長かったので、要約するとこんな感じ。 『針の国の王が求婚してきたので、嫁に行け。本人の意思も聞かず勝手に決めた』  私は極上の笑顔で微笑み、 「白亜、王には私からも聞いてみるわ。貴方は私の娘同然ですもの」  で・も。授業は通常通りに行った。 それはそれだもの。
/296ページ

最初のコメントを投稿しよう!

431人が本棚に入れています
本棚に追加