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手元の懐中時計を見る。時間は十分間に合いそうだ。
「ありがとう、朱里」
抱えられたまま、頭を撫でると、嬉しそうな表情。幼い頃と同じ、あどけない顔。
「もう、下ろしてくださいまし!」
足をばたつかせる白亜を降ろすと
「行って、きます」
朱里は兵舎のほうに駆け出して行った。朱里の姿が見えなくなってから、話をきりだした。
「…それで、どうしたの?白亜。用があって来たのでしょう?」
よく白亜は城を抜け出すが、街をうろつくか、茶希の研究所に遊びに行く。私達の家に、朝から来るなどあり得ない。
「そうなんですの!!酷いんですのよ、お父様!!!」
…興奮した様子の白亜。この後、だいぶ父への不満、愚痴を交え、かなり長かったので、要約するとこんな感じ。
『針の国の王が求婚してきたので、嫁に行け。本人の意思も聞かず勝手に決めた』
私は極上の笑顔で微笑み、
「白亜、王には私からも聞いてみるわ。貴方は私の娘同然ですもの」
で・も。授業は通常通りに行った。
それはそれだもの。
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