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シオンを連れて、私は森を歩いた。道は木々が教えてくれる。
実は私はかなりの方向音痴であり、私の精霊・翠との契約で木々の声を聴けるようにしている。森の中での迷子はヘタをすれば命がけだ。だが、木々の案内のおかげで、暗闇の中でも道に迷うことは無い
森を抜け、目的地にたどり着く。
赤色が一面に広がる。鮮やかな、あか。悪夢のようにおぞましく、美しい。あの人が作った『紅』の花畑。
足が、震えたのには気付かないフリをした。ここは、私が好きだった人が殺された場所。私はこの場所が大好きだった。
私が、私を無くした場所。
今まで、あの日から来ることができなかった場所。
今は、大嫌いな場所。
「ここは…」
シオンは驚いた様子だった。
「綺麗でしょ」
私は極力平静を装い、笑ってみせた。
綺麗だなんて少しも思えない。赤なんて、大嫌いだ。
「無理すんな」
くしゃっとシオンは私の頭を優しく撫でた。ズルいと思った。シオンは、優しい。
「どうしてそんなに私に優しくするの。私にそんな資格、無いのに。私は、人殺しなのに」
優しくされると、泣きたくなる。シオンは優しくて、私に甘い。
「そんなん俺様がしたいからに決まってるだろ。大体、それを言うなら俺だって戦場に出てた事がある。俺だって人殺しだ。それで?紅は俺を嫌うか?人殺しだと。それとも、仲間だと安心するか?」
「私はシオンよりずっと沢山の人を…」
「数なんざ関係無い。人殺しは人殺しだ。一生消えない」
「そうね」
私は同意した。数は問題ではない。
罪は消えない。消えることはない。
たとえ、500年が経ったとしても。
忘れてはいけない。
忘れることなど出来ない。
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