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時間は少し戻る。
白亜と水都に青銀の姫達の記憶を見せてもらい、朱里も朱花も茶希も泣いた。
誰も悪くは無かったのに、悲劇としか言い様が無い物語。しばらく、泣き声だけが花畑で静かに響いていた。
朱里と朱花はまだ明日の準備があるらしく、花畑にはほぼ支度を終えている白亜と茶希が残った。
茶希は、朱里と朱花が見えなくなってから、白亜に聞いた。
「なあ、白亜が水都と契約したのは5歳だったよな」
白亜の母が亡くなった時だから、茶希も覚えていた。
「確か、そうね」
「じゃあ、5歳の頃には、知ってたのか?」
「ううん。10歳の誕生日に初めてみたの。びっくりした。紅様の昔の笑顔、今と全然違うから。だから、余計に辛くなった」
「そうか。何で今まで教えてくれなかったんだ?」
「紅様にとって、それがいいと思ったから。茶希は紅様を母様として慕っていたし、知ってしまえば今まで通りに接するのは難しいわ。特に、あの時私達は子供だったから、余計に」
「そうだな。でも、子供だったなんて言い訳にもならない。僕は…母さんが苦しんでいることすら気付けなかった」
また泣きそうな茶希の頭を、白亜は背伸びして優しく撫でた。サラサラの髪が心地好い。
「でも、そういう人に救われることもあるの。紅様、茶希が来てから、楽しそうだったよ。私、昔は茶希嫌いだったもの。紅様が茶希の事ばっか話すから。笑ってくれたとか、ポトフ上手に作ってくれたとか…本当に嬉しそうだった」
「うん」
「一緒に、頑張ろう?」
「うん。…白亜」
不意に、茶希は白亜の手を引いた。白亜は爪先立ちをしていたため、あっさり茶希に抱きしめられた。
「ずっと一緒にいて」
それはどういう意味なのか、白亜は聞きたかったが、全くそれどころではない。
心臓が破裂するんじゃないかというぐらいの勢いで動いている。顔は絶対赤い。
「いるわ」
白亜は、そう返答するだけで精一杯だった。
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