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ふと、白亜を抱きしめていた茶希が、白亜ごと茂みに隠れた。
「ちょっ…私、まだ心の準備が…」
と言った白亜の口を茶希は抑え、静かにするよう行動で促した。
紅と、シオンが花畑に歩いてきた。
「!?」
白亜はびっくりした。
茶希も少なからず驚いている。
紅はこの花畑に近づくことすら嫌がる。理由を知らない茶希は、ここが嫌いなんだと思っていた。
この500年、一度も来ることが無かった、愛した人が死んだ場所。よく見ると、紅の表情は固く、顔色も悪い。
2人が何を話しているかはさすがに距離があって解らない。
この場に朱里か朱花がいれば、風を起こす応用で、音を集めて聞かせてくれただろうが。
紅はシオンとしばらく会話をすると泣き出した。小さな子供のようにシオンにしがみつき、ただひたすら泣いていた。
白亜にとって、初めて見た紅の涙。白亜も茶希も黙って2人を見守った。
どのくらいそうしていただろう。シオンは紅を抱き直し、もと来た道を戻ろうとした。
「人の母親、泣かさないでくださいよ」
茶希は立ち上がり、シオンに告げた。
シオンは驚いた表情で振り返り、茶希を見た。
「は!?お前らいつからそこに?覗きか」
「違います」
茶希ははっきり否定したが、まだ隠れている白亜は、不可抗力だけど、覗きだったと思った。
「じゃあ、なんだよ」
「母が悪い男に苛められていないか監視していたんです」
「監視って、ストーカーかお前は。俺じゃねーよ。泣かしたのは。今も昔も、こいつを泣かしてるのは1人だ」
シオンは寂しげに見えた。この騒ぎの中ですら起きない紅の髪を、シオンは優しく撫でた。
「アンタも、白亜から記憶を見せてもらったんだってな。お前も、守れよ。母さんを」
「ああ」
白亜はまだ隠れていたが、2人は実は意外に仲がいいのかもしれないと思った。
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