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どこからかおいしそうな匂いがする。そういえば、お腹すいたかも。
服を着替え、自分の部屋を出ると、階段を降りて一階へ。
この国の民家は大体大木のうろを利用しているため、円筒状になってる。我が家も然り。
一階のキッチンでは、私の息子が朝食を作っていた。
…匂いからして、パンと、チーズオムレツと、ヨーグルトサラダかしら。
「もう少しでできるから。待ってて、母さん」
私の気配に気付いて、息子が声をかける。茶色の髪と瞳。視力が悪く、眼鏡をかけた青年。フライパンでオムレツを焼きつつ、ちらりとこちらを見た。
「ありがとう」
返事をして、コーヒーを人数分いれる。コーヒーをすすりつつ、息子が料理する姿を見つめた。
ずいぶん料理上手な子になったものだ。
…あれから、20年。
息子と言っても、血は繋がっていない。私の身体では、恐らく子供は作れない。
20年前、戦争で孤児となったこの子を引き取った。もう25歳になる。子供扱いすると怒るが、可愛いのだから仕方ない。
『茶色の髪と瞳だから茶希(サキ)』
名前もわからなかったこの子に、私が名をつけた。
血は繋がっていなくとも、大切な家族だ。
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