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「突然の事、失礼致しました。
私は心の中が伝わって来て読み取る事ができるのです。
それで貴方様の心の音色が流れて来たように思えましたので、思わず御声を掛けてしまいました。」
聖女の説明でその発言に納得したが、同時に怒りも湧いて来た。
触れられたくない物を触れられ、自分の領域を侵された気がした。
「へぇ、それでか。
それで勝手に人の心を覗き見したってか……
オレの過去も読んだっていうのか!」
シルドは怒りで思わず怒鳴り声を上げた。
「あっ…違うのです。
読み取れるのは心に浮かんだ表面の感情だけ!
それでも、貴方様に不快にさせてしまった……
大変失礼致しました。申し訳ありません。」
シルドの罵声と聖女の沈むような声は、この静かな森に消えていき、また静寂を取り戻し始めた。
沈黙がシルドの熱くなった心を沈めていくには十分だった。
冷静になったシルドは、声を荒げてしまった事を今更ながら恥ずかしく思った。
興奮し、握り締めていた手で、思わず頭を掻いた。
「あー……えぇーっと、悪かったな。
オレは…シルドだ。
聖女さんは?」
「私の名はシルメア。
シルメア・マテニと申します。
これからよろしくお願い致しますシルド様。」
弾むようなシルメアの声は、聴くからに気持ちを取り戻したようだった。
これが本来の通る美しい声なのであろう。
この声でシルドは心が洗われる思いになった。
この声を掛けられれば、信者達も信仰に力が入ろう。
だが、この物言いにシルドは思わず吹き出してしまった。
「誘拐されてるってのに呑気なもんだな。」
シルドの一言で笑い声が二人から溢れた。
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