第一章 胎動

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星暦12998年7月21日1200時 《神聖都ジン》郊外 太陽が丁度真上辺りから照らしつける。 その光を遮る物は一切なく、辺りは緑色の絨毯のような草原が広がっていた。 その草原に小高い丘が一つ。 丘を使い、街から隠れるようにしている黒ずくめの集団が見えた。 しかし、その内の一人が丘の上から街の中心部に高くそびえる 《マテニ教会》総本山の大神殿を堂々と見つめていた。 顔を全部隠すような外套を着けているが、隙間から幼さがまだ少し残る少年の顔が見えた。 「帰って来たか……またここに。」 その瞬間、草原を走るような突風が吹き抜け、少年のフードを背中へと飛ばした。 風が鼻にかかるくらいの長さの黒髪をなびかす。 前髪の間から見えるその瞳には、炎のような燃え上がる力強さ……そして吹雪のような吹き荒ぶ冷たさをも感じさせた。 「シルド、あまり目立つな。」 低くかすれる声が後方から聞こえた。 シルドと呼ばれた少年は後ろを振り向くと、集団の中でも一番長身の男が放ったものだとわかった。 「あぁ……わかった。」 シルドが丘を飛び降りると、それが合図であったかのように黒づくめの集団は、散々に草原の中に消えていった。
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