第一章 胎動

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星暦12998年7月22日0130時 《神聖都ジン》大神殿裏通り 太陽は沈み家に灯もる光も消え、照らすは月明かりのみ。 昼間の喧騒は幻想であったかのような静けさ。 少ない明かりと静寂が拍車をかけ、裏通りの闇をより際立たせる。 「そろそろ行くぞ。 偵察に行った奴が帰って来たら任務開始だ。」 裏通りにある廃屋の中。 レイブは聞き取れないくらいの声でシルド達に伝える。 しばらくすると廃屋の中の気配が一つ増える。 「レイブ隊長……北口、南口共に見張りの数は多くありません。」 偵察から戻って来たのか、一人の密偵がレイブの後方から声をかけた。 「見張りの交替時間だと言う情報は正しかったみたいだな。」 昼間の広場での感情のこもった声とは違い、シルドはさも興味無さげに呟いた。 レイブも声にこそ出さなかったが相槌を打った。 すると物音一つ立てず、シルド達四人の気配が廃屋から消えていった…… 《大神殿北口》 北口に着いたシルドともう一人の仲間。 シルド達は双手に別れる事にして、南口にはレイブと偵察に行った一人が向かった。 北口には二名の見張りの兵士が見えた。 二名は軽く雑談をしているようでかなりの距離を近付いたが気付かないようだ。 「右は自分がやります……左はお願いします。」 二人は顔を見合わせると、腕帯に差してあるナイフを抜いた。 光に反射しないよう刃を焼き、消音の為鞘には油を滴めていた。 月明かりに照らされても煌めかず、漆黒に色を染められたままだった。 距離にして20歩程。 普段なら何でもない距離だか、闇夜の為狙いが難しく思えた。 緊張の為かナイフを握る手が汗ばむ…… 狙いを定め、見張りに向かいナイフを投げた。 息を合わせたかのような二人のナイフは、ほぼ同時に直線を描く。 左の見張りの喉元には深々と刺さったが、シルドのナイフは首筋をかすめただけだった。 狙いが外れた事に内心軽く舌打ちをするが、二人は即座に見張り向かって駆け出す。 左の見張りは喉から血を流しながら無言で崩れていく。 シルドが狙った右の見張りもナイフに塗った神経毒が回り、体の自由が効かないのか片膝を付いていた。 見張りがシルド達に気付いた時は、すでに左胸と腹部にシルド達が腰から抜いた長剣【バスタードソード】が突き刺さっていた…… 「すいません……まだ未熟ですね。」 見張りを始末すると、シルドは仲間に礼と詫びを入れた。
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