第一章 胎動

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星暦12998年7月22日0830時 神聖都ジンの北 街道外れの森 木々の隙間から朝日が差し込みシルドの顔を眩しく照らす。 昨夜着けていたマントであれば、フードで遮れたかも知れない。 しかし今着けているいるのは重武装な板金の鎧【プレートメイル】の為、東から挿し込む光を右手で防ぐしかなかった。 一行は先日の黒装束とはうって変わり、全員が重武装で一目では騎士のように見えた。 その騎士達が囲むように中心には豪華な造りの馬車が一台。 よく見るとその馬車や騎士達の胸には【マテニ教会】の紋章が印されていた。 「しっかし、今回は中々大変な任務だったねぇ。」 突然声を掛けられシルドは一瞬緊張したが、すぐに後ろの仲間の女性からのものだと気付く。 「そうですね。 オレは今まで単独か、多くても一小隊三名の任務しか与えられなかったので今回みたいな大きい任務は初めてですよ。」 シルドが振り向かずに返事をしてきたので、後ろの女性はシルドの隣まで歩み寄った。 彼女、ミキシィとはよく任務を共にするので自然とよく話すようになっていた。 「あたしも初めてぇ。 だけど【ウィスキン帝王】も大胆な任務を与えてくれたわねぇ! なんせマテニ教会の【聖女】誘拐よぉ? もしかしたら普段中々日の当たらないあたし達【第死暗闘部隊】の、歴史上最大で最高に名誉な仕事かもよぉ!」 と二人は互いに笑いあった。 「シルド、ミキシィ。静かにしろ! こんな格好だが隠密行動中だという事を忘れるな。 それに追跡に聖女近衛隊【セブンスヘブン】が動くはずだ。 警戒を怠るなよ……」 先頭を歩いていたレイブからの叱責が飛んで来た。 するとミキシィは、罰の悪そうな顔をしながら馬車の後方へと戻って行った。 シルドも正面を向き直し、真顔に戻った。 (しかし聖女誘拐なんて、帝王は何を考えている…… また戦争でも始める気か?)
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