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ただその気持ちを気取られないように、リーバーはゆっくりと頷いた。
「早いとこ終わらせちゃって下さいね」
コムイはリーバーの言葉に頷く暇もなく、早速何枚もの書類にサインを始める。
いつもこの位で仕事をしてくれれば……。
そんなことを思いながら、リーバーは軽く肩を竦めてコムイに背を向けた。
「あ、リーバーくん!」
自分を呼び止める声に振り向くと、コムイが手招きをしていた。一体何なのだ。まだ呼び止めるか、と溜息を吐きたい気持ちを抑えながら再び近付くと、コムイはデスクから身を乗り出し、リーバーの腕を掴んだ。何だ、とリーバーがそれを意識した瞬間、コムイはその腕を引いていた。
――ちゅ。
ぱちくりと瞬きをするリーバー。頬には柔らかな感触。恐る恐るコムイを振り向けばそこには満面の笑みが。
「リーバーが珍しくお休みくれたから、そのお礼」
「…………」
ほんの数秒、リーバーの思考が停止する。そして戻ってきた思考がまず命令したのは、
「痛ッ!」
――コムイの頭に拳を落とすことだった。
「ちょ、何するのさリーバーくん!?」
「これでちょっとの休みの対価になると思ってるんですか?下らないこと考える暇あったらさっさと仕事してください!」
声を張り上げコムイにそれだけ言い終えると、リーバーはさっさと自分の席に戻ってしまった。ぽかんと呆気に取られてしまったコムイは少しの間を置いてから、リーバーに殴られたことのショックからかしくしくと涙を流しながら漸く仕事に手を付けた。
「馬鹿じゃないかあの室長は」
真っ赤になった顔を隠すようにデスクの書類に顔を埋めながら、リーバーは呟いた。それに、満更でも無いと思っている自分がいるため、余計に恥ずかしい。更にぶつぶつと何かを呟きながら、やっと顔を上げた頃にはリーバーの顔の火照りも大分引いていた。
おもむろに立ち上がると、リーバーは再び席を外した。……コムイに差し入れのコーヒーでも淹れてるつもりなのだろう。殴ってしまったことへの謝罪という意味合いも込めて。
(ただ本当は、頑張ってるコムイの姿を見ていたいから。なんて、リーバーには言えるはずもないのであった)
end
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