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『ラプトで腰防具
装備して』
そうか。
このアイテムがレザーベルトになるのね。
よかった。
終わったんだ。
『行きましょう』
ドレイクだけ気をつければいいのよね。
来た道を戻りかけた時、またしても思いがけない言葉を目にした。
『ドレイクやりましょう』
はい?
今…なんて?
問い返す間もなく、緑色のドレイクを挑発。
何が起きたかわからず一歩も進めない。
目の前の戦闘を見つめる。
『えいっして』
携帯を持つ手が震える。
『えいっして
ヒール』
『速く』
次々とくるチャットに、緊迫感が押し寄せる。
何かしなければいけないことはわかっているのに、頭の中が真っ白になってヒールすらできない。
『えいっして』
業を煮やして、彼がドレイクを引っ張ってきた。
『後からえいっして』
震える手で決定ボタンを押す。
戦闘のBGMが流れた。
不思議なことに、それまでの緊張感が解けてきた。
とりあえずヒール。
微々たる回復量。
だけど私にできるのはヒールだけ。
ごめんね。
ごめんね。
胸が苦しくなる。
『座ってください』
気がつくと戦闘は終わっていた。
その場に座り込み、ホッと胸を撫で下ろす。
よかった。
バインドポイントじゃなかったんだ。
『お疲れ様』
あなたこそ。
私…何もできなくて本当にごめんね。
この時の無力感が、後にクレリックをはじめるきっかけになっていた。
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