第1話 こえ

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夏休みに入って間もないその日。風邪をひいてしまったHくんは、家で寝ていました。 喉の渇きを覚え、目覚めると、時計は午前11時を指そうとしていました。 少しばかり熱があるため、頭はぼーっとしています。だるい身体を半身起こして、枕元の水を口に入れると、またすぐに横になりました。 家には彼が一人だけでした。両親は仕事で夕方まで帰りません。弟と妹がいましたが、学校のプール開放へ行って、お昼まで戻りません。 心細さを堪えながら、もう一度寝ようとしますが、一度覚めた目はなかなかねむたくなりません。 時計の秒針の音とがやけに大きく聞こえます。何度となく寝返りをうちました。 「早く弟たち帰ってこないかなぁ~。まだかなぁ~」 もう一度時計を見ると、11時を少し回ったところでした。 「開けてくいやらんけ?」 「えっ?」 玄関から声がしました。一瞬気のせいかな?と思いましたが、しばらくして、また、 「開けてくいやらんけ?」 少し掠れたおばあさんの声でした。 ご近所の人かな?と思いましたが、聞き覚えのない声です。 『開けてくいやらんけ?』という言葉は、鹿児島の方言で『開けてくださいませんか?』という意味に当たります。
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