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「なる程、そう言う事か……」
突如、何処からともなく、中性的な声が届いた。
廃墟の屋敷は昼間でも不気味な為、そうそう寄り付く者は居ない。まして真夜中になれば皆無に等しい。
密事を行うには適した場所だ。
しかも、リゼルがもしもの用心にトラップを仕掛けてあるのだが、誰かが掛かった形跡はない。
外部からの侵入者は居ないという事だ。
少女達が驚いていると、魔法陣から淡い紫色の光が溢れ出した。
陣の中心に翼を想わせる紋様が浮かび上がる。それと同時に、黒い羽根が湧き出した。
無数の羽根が舞う部屋の中。いつの間にか、円の中に若者が佇んで居た。
年は二十歳くらいだろうか。黒髪を伸ばせば女性と見紛う中性的な顔立ちに、ビスクドールの如き白い肌。
燕尾服のような裾が長いカッターシャツ、ベストを着ればどこぞのパーティーに潜れ込めそうな装いだ。
アメジストを想わせる紫色の眼が、若者が人間ではない事を物語っていた。
召喚された若者は、心外そうに首を傾げてみせた。少女達は驚きのあまり、若者を直視したまま固まっている。
「どうしたの……、何をそんなに驚いているんだい? あぁ、もしかして……、召喚できると思っていなかったのかい?」
さも楽しそうに微笑む若者に話し掛けられ、少女達は我に返った。急速に湧き出た恐怖感に、二人は身を寄せ合う。
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