第1話・黒い羽根

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   本能が警告を発していた。眼の前の若者は危険だと。早く逃げろと告げるが、少女達は動く事ができずに居た。  驚愕と恐れが、彼女達を束縛しているのだ。    周囲を舞っていた羽根は幻であったかのように薄れ、全て虚空へ消え行く。  だが若者は依然と目の前に佇んでおり、これは現実だという事実を少女達に示していた。   「どっ、どうしてっ! まだ何も唱えてないのにっ!」  リゼルは狼狽えながらも声を張り上げた。そうでもしないと恐怖に蝕まれてしまうからだ。    召喚術は魔法陣と呪文の二つがあって、始めて何かを招く事ができる。それが道を開く鍵となる呪文を唱えないうちに何かが出て来れば、誰しも驚く。    しかも少女達が喚び出した事があるのは、下位に区分される小動物のような生物だけ。  それも自分達の住む世界の住人であり、言葉を解する者。妖獣と呼ばれる者達のみだ。    この世界の住人で、なおかつ人間に似た姿形の者で召喚できる者と言えば、フェアリー等の妖精や極一部の精霊達だけだ。人間と全く同じ姿をしている者は、喚び出す事はできない。    その事や言葉が通じる事から推測すると、この世界に影響を及ぼしている……、隣接する世界の住人なのだろう。異世界の住人を喚び出せた事でも信じられない事態なのだが、人型で、さらに言葉を話すとなると尚更だ。  
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