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「ユウ、」
眼帯の男は、いつもの笑みを浮かべながらオレの髪に手を伸ばした。
「オレはさ、ユウ。教団を、裏切るかもしれない」
イノセンスとかエクソシストとか、その前に、オレは、次期ブックマンだから、と男は言った。
「…そうか、」
「だからさ、ユウ。ユウと、敵として会うかもしれないさ、」
「…そうだな」
「その時はさ、」
「安心しろ。叩き斬ってやる」
ユウらしい、と男は爆笑した。
「でも、嫌さ」
「あ?」
「イノセンスじゃあ、嫌さ。オレを殺すときは、」
男は、オレの角張った手をとり、まるで、それが雛鳥だとばかりに、柔らかく、口付けた。
「ユウの、この両手で、」
誰が何と言っても、ブックマンだから仕方がないと言っても、ブックマンだから生かしてやれと言っても。
「ユウの、この両手で、オレを殺して」
それが、男の、オレへの最後の願いであり、男とオレの、最後の約束であった。
男と、その師は、教団を出奔した。
あの会話の、一週間のことだった。
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