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玉座が一瞬で赤く染まる。
金髪の少年が、歯をくいしばって肉の塊から剣を引き抜いた。
「……っ」
血でテラテラと怪しく輝く刃を見て、少年は目を細めた。
少年に長髪の青年が布きれを差し出し、血が滴る剣を示した。
「…後悔してますか?」
「するわけがない。…でもこんなにきついと思わなかったなぁ」
肉親をこの手で殺めることが。
玉座の前に立つ二人の後ろでは、きらびやかな装いの女性と青年が無表情で倒れている。そして目の前、玉座から滑り落ちた男は、輝く金の冠を握ったまま、まだ幼い息子に対する驚愕と恐怖を顔に浮かべて息絶えていた。
少年―第二王子は父の前に歩み寄り、王冠を取り上げ自分の頭にのせる。
「…こんなものが人の命を動かす。……馬鹿らしい」
小さく呟いて、似合ってる?と青年の方へ振り返った。
「全く」
青年は笑って即答する。
血にまみれた王冠は、この人には似合わない。
「即位、おめでとうございます。また面倒事引き受けましたねー。まぁ、せいぜい頑張って下さい」
「冷たい」
「自業自得です。わざわざ自分から玉座に座るなんて…。民バカですからねぇ」
民が好きで、国が好きで、きっと自分のことは頓着していないのだろう。ひたすら民のために尽くす。
「それ、褒めてる?」
青年の気持ちに全く気付くことなく、王子は゛民バカ ゛という微妙さに顔をしかめた。
「もちろん、最高の賛辞でしょう。新王陛下にはこれからビシビシ働いて貰いますから」
「うっわ、自分だけ逃げられると思ってるの? 当分こき使ってやるんだからね、リーノス宰相」
宰相と呼ばれた瞬間、リーノスは一瞬目を見開き固まった。
「……えぇ? 私なんかが助けなくてもいい国王になって下さいよ」
「それこそ゛えぇ?゛だね。俺とリーノスでこの国動かすんだから」
「わー、独裁宣言ですか」
血まみれの謁見室で呑気に言葉をかわす二人を、大きな歓声が包むのはもう少し後。
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