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「どうして…」
宮乃 優は、古びた倉の奥を凝視して絶句した。
「なんでこれがここにあるんだ?」
鎖に絡められた大きな剣。黒い石が付けられた鍔の先から伸びる鋭い刃先。横に立て掛けられた鞘の表面には、銀で高度な細工が施されている。
「俺が持って来たからに決まっているだろう」
後ろからあっさりと答えが返ってくる。
振り返るとそこには、すらりと伸びた長身の目鼻立ちが整った男が立っていた。
「あっちに置いて来たんじゃないんですか?」
「バーカ。向こうに戻るのはいつかわからなかったんだ。いざ戻った時に、『すいません、無くしました』とでも言われてみろ。どうしようもないだろうが?」
これは新しく作れない、と呟いて男は腰まで届く黒髪をかき上げる。
唯我独尊、自分中心に世界を回す父、宮乃 恭は、今まで隠してきた悪気は微塵も感じないらしい。
「そりゃ無くされたら困るけど…、ここに置いておくのも危ないでしょう?」
銃刀法違反とか、諸々。
「あぁ、それはもう心配ない」
……もう?
優は首をかしげた。
「今から向こうに戻るからな」
「…誰がですか」
激しく嫌な感じがする。
恭は封印の鎖を簡単に取り払うと剣を鞘に戻し、放り投げた。
「お前が行け。主はお前に代わった」
咄嗟に受け取った剣を呆然と見つめていた優に、ほらみろと焼け爛れた掌を向けて来る。
「その剣にとって俺はもう用済みらしいな。この通り触ることも出来ない」
そう吐き捨てると、恭はさっさとしろと準備しろといわんばかりに床に座り込んで優を睨み付けた。
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