1人が本棚に入れています
本棚に追加
っていうか俺が行く事は決まってるんですか。
優はチッと舌打ちして、床に勢いよく鞘ごと剣を突き立てる。古びた木は簡単に剣を通した。
睨み返すと、恭はため息をついて口を開いた。
〈━━━━━〉
世界中どこを探しても存在しない、向こうの言葉で歌うように紡ぐ不思議な旋律。その音に合わせて風も吹いていないのに父の長い髪がフワリとたなびく。
〈━━━…ラスファーネ〉
最後にあの国の名前を呟くと、剣がぼんやりと白く光り始めた。
判ってはいたものの、思わず剣を握った手を離してしまう。
「何やってんだ、早く行け。何のために今まで叩き込んでやったと思ってんだ?」
一般の勉強はもちろん、格闘技の諸々からあの世界の歴史や剣術、父だからこそ知っている裏事情まで。
こんなもの役に立つのかと聞けば、備えあれば憂いなしと笑う父。片っ端から身につけさせられた知識と技術は全てこのため。どれだけ自分の記憶力と運動能力に感謝したことか。
「……ったく」
ため息をついて剣の柄をしっかり握り直すと、身体が徐々に霞み始める。
あの世界は色々疲れるになぁ。
「クソ親父!」
捨て台詞を吐くと、俺は世界から消えた。
最初のコメントを投稿しよう!