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「…誰がクソだ、バカ息子」
一人息子が旅立って、かつて英雄と呼ばれた男はズルズルと床に座り込んだ。
背筋を冷たい汗が滑り落ちた。荒い息を整えようと深呼吸を繰り返す。
「この世界はとことん術を使うには向いて無いな…」
あの世界のように魔術は存在しないから、負担は全て術者の身体にかかる。時空を越える高度なものならなおさらで。
「…きっついな」
身体が怠くて、あの世界に行きたくても行けない心がつらくて、何が何なのか判らなくなる。
「あーもー……」
呻いて片手で顔を覆うと、床に小さく蹲った。
埃まみれの床に、そっと指で太陽の形を描く。子供でも簡単に書けるその形は、あいつと一緒に決めた大切な記号。
あの国にはまだ、あの旗は上がっているだろうか。
「優、頑張れ…」
自分の息子だから、うまくやることは違いないけれど。
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