名前はまだ無い

3/3
前へ
/68ページ
次へ
そして戦っている間、私は悟った。 この少女は強い。 私が何千年生きていようが かなわない、と。 男達がいなくなった後、私は少女の前で自然と膝をついていた。 「全てが終わりし時まで、私はあなたを……」 言いかけて、止めた。 少女は依然として私をじっと見ていたが、 その目が少しばかり揺らいだからだ。 その動作は私が願いを言えと叫んだ時にもしていたので、 原因は容易に想像がついた。 嫌なのか。 『守りたい』と言われる事が。 「…………私はあなたの家来となりましょう。 あなたと共に消える日まで、 この体全てをあなたのお好きなようにお使い下さい」 元より『死にたい』と願う人間に 出会ってしまった時点で、私の運は尽きた。 そう言うと、少女……いや、主はくすりと笑った。 「確かにそうかもね。 うん、それじゃあ私の家来さん、 帰ろうか」 主は私の手を取ると、歩き始めた。 右手には傘、左手には私の手。 私が出てきた箱もお忘れなく。 主は傘を開かないのだろうかと思っていたら、 いつの間にか雨は止んでいた。 「ねえ家来さん、ケーキは好き?」 「……けえき?」
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加