世界

3/9
78人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
「あなたは優しすぎる。」 姉さんは僕の事をそんな風に言う。「そんな事じゃ、武器を持たないで戦場を行く兵隊と一緒じゃない。」と。 僕の受けている、仕打ち。 それを彼女に話した事はない。 心配を掛けたくないからだ。 姉さんの、小さな壊れ物の様な頭の中を僕なんかで一杯にして欲しくない。 でも、姉さんは気付いてしまうんだ。いつも、いつも。 僕のこの、赤紫の斑点があちこちに浮かぶ身体を見る訳でもなく、一人で居る時どうしようもなく(無意識に)涙が流れてしまう僕を見る訳でもなく。 姉さんと僕は距離にしたら、地球と宇宙の空間、到底辿り着けるような距離じゃない程にかけ離れている。 明るくて、頭が良くて、美しい姉さんは、両親にも同級生にも、勿論異性にも彼女の存在は誰かしの心に暖かい温度を作り出す。 彼女の前では、優しくありたい。美しい人間でありたい。 そういう感情を抱かせる。 そして何より、姉さんは強い。 姉さんは、森の中の日の当たらない場所で、根を張ろうとするる一輪の花だ。 強い意志を持って、正しい場所を選ぶ。 花は時間を掛けて、ゆっくりと芽になり、花びらを咲かせる。薄紫の小さな花だ。やがて種は風で運ばれ、暗い森のあちこちに小さな紫の集落を作る。 そして花は知る。 自分はやはり、正しかったと。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!