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「あなたは優しすぎる。」
姉さんは僕の事をそんな風に言う。「そんな事じゃ、武器を持たないで戦場を行く兵隊と一緒じゃない。」と。
僕の受けている、仕打ち。
それを彼女に話した事はない。
心配を掛けたくないからだ。
姉さんの、小さな壊れ物の様な頭の中を僕なんかで一杯にして欲しくない。
でも、姉さんは気付いてしまうんだ。いつも、いつも。
僕のこの、赤紫の斑点があちこちに浮かぶ身体を見る訳でもなく、一人で居る時どうしようもなく(無意識に)涙が流れてしまう僕を見る訳でもなく。
姉さんと僕は距離にしたら、地球と宇宙の空間、到底辿り着けるような距離じゃない程にかけ離れている。
明るくて、頭が良くて、美しい姉さんは、両親にも同級生にも、勿論異性にも彼女の存在は誰かしの心に暖かい温度を作り出す。
彼女の前では、優しくありたい。美しい人間でありたい。
そういう感情を抱かせる。
そして何より、姉さんは強い。
姉さんは、森の中の日の当たらない場所で、根を張ろうとするる一輪の花だ。
強い意志を持って、正しい場所を選ぶ。
花は時間を掛けて、ゆっくりと芽になり、花びらを咲かせる。薄紫の小さな花だ。やがて種は風で運ばれ、暗い森のあちこちに小さな紫の集落を作る。
そして花は知る。
自分はやはり、正しかったと。
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