78人が本棚に入れています
本棚に追加
姉さんの部屋は、姉さんそのものだ。
暖かいクリーム色のベッドカバーとカーテン。
チョコレート色のデスクに、古びた本棚。そこに並ぶ分厚い、本達。
壁にかけられた、文字の掛け軸。漢字は『真』と描かれている。
僕は薄いコーヒー色の、ふわふわとしたラグの上に、膝を抱えて座っている。
姉さんは、僕の横で、白熊やアザラシを撮影した『アラスカの大自然』という写真集を、眺めている。
ページをめくる度に、姉さんの柔らかな茶色の髪が、耳を滑り頬にかかる。
その髪を、ゆっくりとした動作で耳にかけ直す。
僕は姉さんの、その動作が好きだ。
そこにはある種の、安定がある。私は、あなたがここに居て、私を見ている事を知っている。行かないでいいから。気が済むまで隣に居ていいから。
意識されない事の安定。無言のメッセージ。
「要。」
本から顔を上げて、姉さんが僕を見る。
髪と同じく色素の薄い、茶色の瞳。僕と姉さんの唯一の共通点をあげるならば、それはこの瞳の色だ。僕が持つ物で姉さんと同じものはこれしか無い。
「最近はどうなの?」
時々、姉さんはこう尋く。
確かめずには居られない、というように。
誰かに又、傷付けられているんじゃないかと、疑いながら。
「何も変わりはないよ。」
僕の台詞はいつも同じ。
意識的じゃない、気付いたらそう言ってる。
「あなた、最近痩せたわ。」
「そうかな。」
「顎が鋭くなったし、足なんか、あたしより細いみたい。」
最初のコメントを投稿しよう!