世界

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姉さんの部屋は、姉さんそのものだ。 暖かいクリーム色のベッドカバーとカーテン。 チョコレート色のデスクに、古びた本棚。そこに並ぶ分厚い、本達。 壁にかけられた、文字の掛け軸。漢字は『真』と描かれている。 僕は薄いコーヒー色の、ふわふわとしたラグの上に、膝を抱えて座っている。 姉さんは、僕の横で、白熊やアザラシを撮影した『アラスカの大自然』という写真集を、眺めている。 ページをめくる度に、姉さんの柔らかな茶色の髪が、耳を滑り頬にかかる。 その髪を、ゆっくりとした動作で耳にかけ直す。 僕は姉さんの、その動作が好きだ。 そこにはある種の、安定がある。私は、あなたがここに居て、私を見ている事を知っている。行かないでいいから。気が済むまで隣に居ていいから。 意識されない事の安定。無言のメッセージ。 「要。」 本から顔を上げて、姉さんが僕を見る。 髪と同じく色素の薄い、茶色の瞳。僕と姉さんの唯一の共通点をあげるならば、それはこの瞳の色だ。僕が持つ物で姉さんと同じものはこれしか無い。 「最近はどうなの?」 時々、姉さんはこう尋く。 確かめずには居られない、というように。 誰かに又、傷付けられているんじゃないかと、疑いながら。 「何も変わりはないよ。」 僕の台詞はいつも同じ。 意識的じゃない、気付いたらそう言ってる。 「あなた、最近痩せたわ。」 「そうかな。」 「顎が鋭くなったし、足なんか、あたしより細いみたい。」
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