3055人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
バスに揺られて、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺める。
このバスが、何処へ向かっているのなんか知らない。
見知らぬ場所に行きたかっただけ。
行き先なんか関係ない。
終点まで行って、そこからまた考えるさ。
それまで暇だから、自己紹介でもしておくか。
俺の名前は、黒川夜月(くろかわやづき)。
月の綺麗な夜に産まれた、という理由で付けられた名前。
そんな名前をくれた両親は、去年事故で他界してしまった。
駆け落ちした二人だったから、肉親がいるのかどうかも俺は知らない。
だから、葬儀は俺だけで済ませた。
近所の人なんかも、チラホラと参列してくれたが、本当にひっそりとした式だったな。
兄弟もいないから、俺は一人。
俺が中学の頃に両親が新築で購入した家を売り、離れた場所にマンションを買った。
親の遺産と保険金、それと家を売った金で一括購入。
おかげで、ローンはない。
誰にも邪魔されない、自由気ままな一人暮らしだ。
高校を卒業して、三年になる。
仕事は俗に言うフリーター。
派遣の日雇いバイトなんかして、生活を送っている。
趣味はない。
敢えて言うなら、こんな風にふらりと出掛ける事かな。
名前が夜月なんていうからか、夜に出掛ける事が多い。
母親に似たせいで、よく女に間違えられるこの顔と、高1の時から伸びない163㎝の身長が、よけいに俺を女みたいに見せる。
最初のコメントを投稿しよう!