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「除晃殿!走られたらせっかく着替えたばかりの服がまた汗で濡れますよ?」
「平気でござる……はぁはぁ…」
息を切らしながら稀犁に微笑んでいると、稀犁の隣にいた朱雀に頭でぐいぐいと押された。
「よしよし……拙者は何もしないぞ?」
「朱雀!除晃殿はお前に何もしないぞ!」
稀犁がそう言うと、彼女は押すのをやめ、稀犁に顔を近づけてきた。稀犁は優しく彼女の頭を撫でてやった。
「やはりまだ稀犁殿以外には慣れませぬな……」
「みたいですね……すみません……」
「稀犁殿が謝ることはないでごさる」
頭を下げる稀犁に慌てて頭を上げさせると、朱雀が怒りを露わにしながら前足をカッカッと音を立てた。驚いた除晃は慌てて稀犁の近くから少し離れた。この朱雀という馬は前の飼い主にひどい扱いをされていたので、稀犁以外の人間に懐かなかった。稀犁も最初は乗ることも触ることも出来なかったが、長い時間をかけてようやく信頼されたのだった。
「朱雀……」
稀犁が彼女を宥めるように撫でてやると、落ち着いたらしくまた静かになった。
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