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並木道が風に舞う。
「雨……」
ポツリ、ポツリ。降り始めた雨は傘をささない私を容赦なく打ちつける。
梅雨が、始まる。
ザァァァア
毎日毎日、飽きもせずに降る雨。ただただ憂うつ。
「はぁ」
つられるように、私の口からはため息がもれる。「幸せ」は逃げていくばかりだ。
「今日の授業はこれにて」
先生のかけ声で立ち上がる。
「礼」
日直の少し低い声が雨の音に混じる。私はすぐに座り直し、窓の外に目をやった。教室から見る空は退屈で、暇つぶしにもならない。雨を浴びるスズメは少し面白かったが、すぐに雨宿り先を見つけ、飛び立ってしまった。
「……あ」
休み時間を告げるチャイムが鳴り終わると同時に、グラウンドに一人が顔を出した。
(こんなザァザァ降りの中、ばかじゃないの)
その人はどうやらひとつ下の階の先輩、元気に走り回っている。ガハハハと、数人の笑い声も、二階の私の耳に届いた。
うちの学校は、一階が三年生、二階が二年生、三階が一年生の教室になっている。なので他学年と会うことは部活を除いてあまりない。あるとしても移動教室で、くらいだ。
だから私はあの先輩の名前を知らない。見てわかるのは男ってくらい。身長も、顔もここからじゃ見えない。ただばかみたいに笑う雰囲気だけが伝わってくる。
「コラー、上履きで外にでるなっ」
いきなりびっくりするような先生の怒鳴り声。まず注意するのは、上履きよりも雨の日に外で傘もささずに走り回ってることじゃないのか、と不思議に思いながらも目をそらした。
「佐藤っ」
先生はもう一度注意したようだった。
(佐藤……か)
私はその先輩の名前をメモリーした。なぜかはわからない。興味があったから、あえて言うとしたらそれだ。
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