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「ふぁあ」
はきなれた革靴をげた箱から出す。こげ茶色でピカピカしていた靴は、一年もすると、くすんだボロ靴になる。でもそれが気に入っている。
上履きをしまい、革靴に履き替える。ふと見た先には、グラウンド整備をする人たちの姿が見えた。
昇降口から出ると、生暖かい風が頬を撫でた。
「水たまりあるかー」
メモリーした声が聞こえた。ぴくりと聞こえた先を探す。
「こっちお願いします」
キョロキョロ、目をあちらこちら動かす。
「あ、」
いた。
ジャージを着ている佐藤先輩は、やっぱり楽しそう。いいなぁ、なにがそんなに楽しいのかなぁ。一緒にいたらたくさん笑えるかなぁ。
私はぷいっと目をそらした。
「雨雨降れ降れもっと降れ」
傘を手に、くるくる回した。
「雨降れ雨降れいーっぱい降れ!」
私は傘を回すのをやめた。
「アホらし」
困る先輩を見てみたいなんて。どんな趣味よ、私。
「帰ろ」
ザァァァァァア
空からバケツをひっくり返したかのような雨。晴れている空に不釣り合いなもの。私は傘をさすと、はっと、先輩のいるグラウンドを振り返った。
「うわーっ」
「雨ーっ」
雨宿りへと逃げるみんな。サッカー部はボールを抱いて、野球部はバットやグローブを抱いて。
先輩は歩いていた。逃げる人たちにせかされながら。近づいてくる、サッカー部。
「ま、しょうがないなっ」
困らない先輩。しょうがないと笑う先輩。
「今日は筋トレ、以上」
ブーイングの走る中、先輩はみんなをまくしたてた。
「ジャージを洗濯するマネの身にもなってみろっ」
「いつも一番汚すのお前だろっ」
「そうだそうだ」
「いいから行く、俺は着替えるっ」
かわいい、なんだか。ぷっと笑うと目があった。あまりにもすぐに目をそらしたから、わざとらしかったかもしれない。だけど、それしかなかった。そう、したかった。「私」を知って欲しかった。
先輩は、とてもきれいな目をしていた。
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