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一陣の風が吹いた。生暖かい、この時期ならではの風。
夏が、始まる。
「おはよう」
ミンミンとセミが騒がしく歌う。
「おはよ」
すっかり青くなった空、茂る木々。
「もう夏休みだねぇ」
「そうだねぇ」
テストもつい昨日終わり、返ってくるのを待つだけとなった。
私の胸はなんだかザワザワした。これから始まる長い夏休み、楽しみにしていたはずの夏休みが来なければいいと思っていた。
「今日人少なくない?」
私は友だちに聞いた。
「今日はサッカー部が試合でいないみたい」
「へぇ」
うちのクラスはこんなにサッカー部がいたのか、六つくらい空いた席を見回した。
「じゃぁ今日は先輩もいないのか」
ふいに出た言葉。
「先輩?」
気づいて、頭を掻いた。
「なになに、先輩って」
にやけ顔で聞いてくる友だちに「知らない」とくぐもった声で答えた。
なんで先輩がこんなにも気になるの。いないとわかっただけでつまんなくなるの。なんなの、一体。
生ぬるい風が、また吹いた。
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