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「お疲れさま」
「いままでありがとう」
「こちらこそ」
先輩と女の子の会話が聞こえる。やっぱりマネージャーだったみたい。盗み聞きは、はしたない。でも勝手に聞こえてくるのが悪いんだ。私は盗み聞きなんてしてない。耳をそばだてながら自分に言い聞かせる。
どうやら今日の試合で三年生は引退になってしまったようだ。だからマネージャーにお礼を言っていて……。
けっこうきちんとしてるんだ。
私は止めていた足を動かした。マネージャーなら、別にいい。恋愛関係じゃないなら、気にしない。……何考えてるの私。恋愛関係って、何よ。まるで私が恋してるみたいじゃない、先輩に。話したこともないのに。一目惚れなんて信じないんだから。
何に対して意固地になっているのか、それはわからないけど、私は恋なんかしてない。したことない。そうだよ、マンガみたいに胸は高鳴らないし、気に……ならなくはないけど……でも……ときめいてないもん。そうだそうだ。
なんだかよくわからなくなりながら歩いていたら、
ガッチャン
正門にぶつかった。すごい音が鳴った。
「痛い……」
おでこも痛いし視線も痛い。今正門の近くには、私と先輩とマネージャーと数人の生徒しかいない。ごまかせない。
「大丈夫?」
サッカー部のマネージャーが寄ってきたらしい。先輩が「あ、おい」と止めようとする声をあげていた。うん、私も放っておいて欲しかった。笑ってくれないなら放っておいて。
そんな気持ちが届くはずもなく、マネージャーは私のおでこを見た。
「血、出てるよっ」
サッカー部のものであろう救急箱から絆創膏を取り出すと、一枚くれた。
「痛いところは」
「ありません」
あるとすれば私の頭です。ふと足音が近づいてくる。
「一、二年はこれから練習だから行ってやって。彼女は俺が保健室つれていくから」
先輩がマネージャーにそう言いながら近づいてきた。結構身長高いなぁ。
「でも、」
「気持ち切り替えて。俺たちの分も来年頑張ってくれ」
マネージャーは不満気に「わかりました」と去っていった。
「さて、」
先輩は私を見た。
はて、……どうしたものか。
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