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『柚紀!お前っ…何してんだよ!』
慌てて着替えたらしいラフな格好で裕太が表に飛び出してきた。
『よぅ』
と、いつもと全く変わらない挨拶をいつもと全く変わらない顔でする。
『よぅ。じゃねーよ!何やってんだよ!?引っ越しは!?』
『裕太。近所迷惑』
私は唇に人差し指をあてニヤリと笑った。
裕太は一瞬悔しそうな顔をしたが、もっともだと思ったらしく、声をおとす
『…今日、朝一の飛行機じゃなかったのかよ?』
『ああ、断った。』
『は!?』
『私、飛行機って苦手なの。というわけで。電車で行く事にしました☆』
私は初めから用意してきた嘘を伝える。
『しました☆…ってお前なぁ…。ん?じゃあおじさんたちは?』
『お父さんとお母さんは予定通り、飛行機だよ。…ところでさ…お願いがあるんだけど…☆』
裕太が、嫌そうな顔になる。
私がなにか頼む時には必ず一度そういう顔をする
失礼な奴め。
『断る』
まだ話を聞く前に断りやがった。
『まだ何も言っってないでしょー!』
当然、私は怒った。
『…なんだよ。』
更に嫌そうな顔をして聞いてくる
『…駅まで乗せてって』
『…』
もちろん、バイクや車ではない。自転車での二人乗り。
高校に入り、お互いに自然と距離を置くようになって、私が裕太の近くにいられるのはこのときぐらいだった。黙っている裕太にたたみかける
『ほら、荷物重いしさー、ね、お願いっ!』
顔の前で手を合わせる。
いつものお願いポーズ。
私が裕太に頼み事をする時はいつもこれだ。
『…』
それでも裕太が黙っているので
『…裕太のアドレスとケー番…着拒否にしようかなー…』
と、脅してみる
『…わかったよ』
と、仕方なさそうに裕太が頷いた
いつもこう言えば、裕太はワガママを聞いてくれる。
私が着信拒否にするはずないことなんてお見通しの癖に。
裕太がガレージから、ボロいママチャリを引っ張り出してくる。いつも二人乗りの時に使う自転車だ。
『行くぞ』
裕太がデカい鞄を前カゴに乗せ、私に手招きする
荷台に座りいつも通り裕太の肩に手を置こうとし、迷った。
(最後くらい…いいかな?)
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