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「…あ、あの…朝日さん?」
「何」
朝日は顔を赤くしたまま、わたしを見下ろしている。
「あの~…何故、このような体勢になっているのでしょうか?」
朝日の迫力に圧されて、敬語になってしまう。
作った笑顔が引きつっているのが、自分でも判る。
「自業自得だろ。男が女より可愛いなんてことはねぇんだよ。判ったか?」
赤い顔のまま言っているのに、案外と迫力がある。
「え、ええと……ごめんなさい」
「…判れば良し!!」
わたしが謝ると、朝日はいつもみたいにニッコリと、満面の笑みを見せてくれた。
と、その時。
病室の扉が開いて、帰った筈の詩月が入って来た。
「しっ…詩月!?」
(また、このパターン!?)
必ずと言って良い程、いいところで邪魔が入ることに、わたしは内心ツッコミを入れてしまう。
(…って、そんなことより!!)
「え、えと、これはだな…っ!!」
「ち、違うの、詩月!!」
わたしたちが状況を説明しようとしているのに対し、詩月はあまり興味がないのか、静かにナイトテーブルに近付いていく。
「…?忘れ物…。ノックしても、返事くれなかったから……」
と、いつも持ち歩いているクマのぬいぐるみを持って、出て行った。
「…あれ…」
何も訊かれなかったことに、わたしも朝日も、顔を見合わせてホッと息を吐く。
……でも、甘かった。
「朝日兄、病院でふしだらなことしちゃダメだよ♪」
詩月と入れ替わるように、ドアの隙間から顔を覗かせて、太陽くんは笑顔でサラッと言う。
(……詩月についてきてたのね…)
わたしが呑気にもそんなことを考えていると、朝日は今まで赤かった顔を更に赤くして、太陽くんに怒鳴っていた。
「しねぇよっ!!」
「今、まさにしようとしてたじゃない」
「なっ…!!」
流石の朝日も言い返せないのか、言葉に詰まっている。
「…ていうか、詩月ちゃんにそういうの見せないでよね。いくら朝日兄でも、僕、何するか判らないよ?」
真っ黒な…中学生とはとても思えないような笑顔を残して、太陽くんは「じゃあね~」と顔を引っ込めた。
「おまっ…太陽!!」
朝日が叫んでも、太陽くんは既にいない。
「…教訓。太陽くんは腹黒い…」
「美月、俺アイツの兄貴だけど、否定してやれねぇ……」
「………」
「………」
わたしたちは、無言で顔を見合わせると。
プッと吹き出して、大笑いした。
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