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「あー…やっと終わったぁ~」
机にグターッと突っ伏して、力無い声で言う朝日。
「大丈夫?」
「大丈夫ならこんな体制になってねぇよー…」
わたしが近づいて訊いてみると、朝日は力無く顔を上げて、今度は気の抜けそうな声で言った。
(……こんな大きな子供のあやし方なんて、知らないんだけど…)
「なぁなぁ、この後ゲーセン行こうぜ」
「はぁ?」
朝日が突然起き上がって、瞳をキラキラさせながら言ってきた。
(さっきの萎れた感じは、一体何だったの…?)
私は少し呆れて、小さく溜め息をついた。
すると、文月ちゃんに勉強を教えていた皐月くんが、顔を上げて此方を見てくる。
「先輩。その前に、生徒会の役割を美月さんに教えてあげたらどうだ?」
「そういえば、教えてなかったよね~」
文月ちゃんも顔を上げて、口を挟む。
「……文月、無駄口叩いてないで早く終わらせろ。いつまでたっても帰れない」
呆れたような皐月くんの言葉で、ふと時計を見る。
気付けば、時刻は6時を回っていた。
「はーい……」
「はぁ…。集中力が途切れ過ぎなんだよ」
「うっ…ごめんなさい…」
開始時刻から約3時間も休憩無しでやっているのに、あまり進んでいない文月ちゃんを、皐月くんの言葉は容赦なく責めていく。
(何だか、可哀想になってきた…)
「……でもまぁ、今日はもう遅いし、此処で集中出来ないなら後は家でやるか」
「わ、ホント!?やったぁ!!」
文月ちゃんは、とびきりの笑顔で笑って、帰り支度を始めた。
その笑顔を見た皐月くんの無表情が、少しだけ緩む。
それは、大人びて見えていた皐月くんが、歳相応に見えた瞬間で。
初めて見る皐月くんの笑顔と文月ちゃんの笑顔を見たわたしは、先刻とは少し違う意味で、微笑ましく思っていた。
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