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「な……っ」
「中退って、どーゆーことだよ!?」
彼は足をはさめたかと思うと、突然怒ったような口調で叫んだ。
「はい?」
「せっかく一生懸命勉強して入った高校なのに、何で中退するとか言うんだよ!?」
望月くんは、また怒ったような口調で叫ぶ。
ふと気付くと、ご近所さん達が不安そうな目でこちらを見ている。
……判断は、咄嗟だった。
「ち、ちょっと来て下さい…!!」
気付くと、わたしは彼を家にあげていた。
リビングには家族がいるからと、私は彼を自室へと案内した。
(……何となく、リビングには個人的な客人をあげたくないのよね…)
内心で、誰が訊いても判るような言い訳を並べつつ、テキトーな場所に座ってもらう。
「ジュースとお菓子持って来るので、少し待ってて下さい」
「おう!!」
部屋に入って物珍しそうに辺りを見回していた彼は、わたしのその言葉に嬉しそうに答えた。
「ただいま、美月。お友達?」
いつのまに帰っていたのか、リビングにはお母さんがいた。
あまり外に出ないわたしにお客なんて珍しいと思ったのか、お母さんは少し嬉しそうに話し掛けてくる。
「えっと…うん、ちょっとね…」
はぐらかすように作った笑顔は、困ったようなものだったのか、お母さんは不思議そうな、不安そうな表情になる。
「…大丈夫よ。クッキー、もらってくね」
そう言って、わたしはキッチンにある戸棚からクッキーを出してお盆に乗せた。
「…わたし、何でこんなことしてるんだろ…。相手は知らない人なのに…」
冷蔵庫から出したサイダーをコップに注ぎながら、お母さんに聞こえないよう、小声で呟く。
「…今日から隣の席って言ってたけど……席替えなんてするのね。知らなかった…」
(まぁ、早い時期から不登校になったから、学校のこともクラスのことも知らないんだけど……)
我ながら薄情だな、なんて苦笑しながら呟いて、クッキーとコップを乗せたお盆を持って、自分の部屋へと向かった。
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