出会い

4/10
前へ
/91ページ
次へ
「な……っ」 「中退って、どーゆーことだよ!?」 彼は足をはさめたかと思うと、突然怒ったような口調で叫んだ。 「はい?」 「せっかく一生懸命勉強して入った高校なのに、何で中退するとか言うんだよ!?」 望月くんは、また怒ったような口調で叫ぶ。 ふと気付くと、ご近所さん達が不安そうな目でこちらを見ている。 ……判断は、咄嗟だった。 「ち、ちょっと来て下さい…!!」 気付くと、わたしは彼を家にあげていた。 リビングには家族がいるからと、私は彼を自室へと案内した。 (……何となく、リビングには個人的な客人をあげたくないのよね…) 内心で、誰が訊いても判るような言い訳を並べつつ、テキトーな場所に座ってもらう。 「ジュースとお菓子持って来るので、少し待ってて下さい」 「おう!!」 部屋に入って物珍しそうに辺りを見回していた彼は、わたしのその言葉に嬉しそうに答えた。 「ただいま、美月。お友達?」 いつのまに帰っていたのか、リビングにはお母さんがいた。 あまり外に出ないわたしにお客なんて珍しいと思ったのか、お母さんは少し嬉しそうに話し掛けてくる。 「えっと…うん、ちょっとね…」 はぐらかすように作った笑顔は、困ったようなものだったのか、お母さんは不思議そうな、不安そうな表情になる。 「…大丈夫よ。クッキー、もらってくね」 そう言って、わたしはキッチンにある戸棚からクッキーを出してお盆に乗せた。 「…わたし、何でこんなことしてるんだろ…。相手は知らない人なのに…」 冷蔵庫から出したサイダーをコップに注ぎながら、お母さんに聞こえないよう、小声で呟く。 「…今日から隣の席って言ってたけど……席替えなんてするのね。知らなかった…」 (まぁ、早い時期から不登校になったから、学校のこともクラスのことも知らないんだけど……) 我ながら薄情だな、なんて苦笑しながら呟いて、クッキーとコップを乗せたお盆を持って、自分の部屋へと向かった。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加