出会い

6/10
前へ
/91ページ
次へ
「明日、俺迎えに来るから」 「え?」 「ちゃんと支度して待ってろよ!約束だぞっ!!」 そう言って、朝日は残ったクッキーを皿に敷いていた紙ごと持って、ドタバタと帰って行く。 「…………」 茫然と彼の背中を見送って、何気なく視線を何も乗っていない皿に移す。 (何で、残ったクッキーを持って帰ったんだろう…?……ていうより、一方的に決めたことを『約束』って言えるの?) さっきまで軽く血が昇っていた頭が妙に冷静になってしまって、わたしはそんなことを考えていた。 頭に血が昇って急に冷めると、茫然とするしかないということを、初めて知った。 「……約束…そんな風に、言われたら…」 わたしはそこで言葉を切って、開け放たれたままの自室のドアを見つめた。 あんなに自信満々に『約束』なんて言われたら、破れないよ…。 (彼は……朝日は、わたしに何を求めているんだろう?) 確かに、学校を中退するということは、将来を潰すことでもある。 けれど。 だからこそ、尚更。 (どうして、あんなに一生懸命になってくれるんだろう…?) 他人で、面識も殆ど無いに等しくて。 会ったばかりのような、わたしのことなんて……どうでもいい筈なのに。 (他人の気持ちなんて、判るわけないのに…知りたいなんて) 久しぶりに、人を知りたいと思った。 それも、どうしてか判らない。 (…自分が、一番判らないのかも) わたしの頭の中は判らないことでいっぱいだった。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加