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「明日、俺迎えに来るから」
「え?」
「ちゃんと支度して待ってろよ!約束だぞっ!!」
そう言って、朝日は残ったクッキーを皿に敷いていた紙ごと持って、ドタバタと帰って行く。
「…………」
茫然と彼の背中を見送って、何気なく視線を何も乗っていない皿に移す。
(何で、残ったクッキーを持って帰ったんだろう…?……ていうより、一方的に決めたことを『約束』って言えるの?)
さっきまで軽く血が昇っていた頭が妙に冷静になってしまって、わたしはそんなことを考えていた。
頭に血が昇って急に冷めると、茫然とするしかないということを、初めて知った。
「……約束…そんな風に、言われたら…」
わたしはそこで言葉を切って、開け放たれたままの自室のドアを見つめた。
あんなに自信満々に『約束』なんて言われたら、破れないよ…。
(彼は……朝日は、わたしに何を求めているんだろう?)
確かに、学校を中退するということは、将来を潰すことでもある。
けれど。
だからこそ、尚更。
(どうして、あんなに一生懸命になってくれるんだろう…?)
他人で、面識も殆ど無いに等しくて。
会ったばかりのような、わたしのことなんて……どうでもいい筈なのに。
(他人の気持ちなんて、判るわけないのに…知りたいなんて)
久しぶりに、人を知りたいと思った。
それも、どうしてか判らない。
(…自分が、一番判らないのかも)
わたしの頭の中は判らないことでいっぱいだった。
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