美月の涙

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「……ったく、太陽のヤツ…」 電話の切り際、太陽は俺にこう言った。 「裂傷のたった5ヶ所くらい、朝日兄ちゃんなら大丈夫だよ。治癒力、半端じゃないんだから!!」 「…太陽、喧嘩売ってんなら買うぞ」 俺だって、あくまでも生身の人間だ。 俺は声を少しだけ低くして文句を言う。 「そんなつもりじゃないんだけどなぁ。じゃ、明後日迎えに行くからね~」 明らかに楽しんでいる様な声色でそれだけ伝えて、太陽は電話を切った。 (何かアイツ、会ったこともない筈の会長にすっげぇ似てきてる気がする…) 強ち間違ってもいないような太陽の将来図を予想すると、嫌な寒気が走った。 「はぁ~…。それにしても、自分の弟ながら、一方的なヤツだなぁ…」 「ん……」 「お、美月。おはよ」 美月は目を擦りながら俺からゆっくりと離れていく。 「……わたし、寝ちゃってた?」 不思議そうに訊いてくる美月は、まだ寝ぼけているのかボーッとしている。 「あぁ。俺にしがみついたまま、ぐっすりだったぜ」 俺が笑顔でそう言うと、美月は完全に目が覚めたのか、大きく目を見開いて飛び退いた。 「えぇ!?う、嘘、ごめん!!身動きとれなかったよね!?重かったよね!?ごめんなさいっ!!」 早口でそう言い終わると同時に、美月は勢いよく頭を下げた。 「いや、全然。俺が動かなかっただけだよ」 (本当は普通の体制で寝かせてやりたかったけど…) 俺は寝てる奴を起こさないように移動させるなんて、そんな器用な芸当は出来ない。 (きっと起こすだろうから、可哀想でやめたのに…) 結局は、自分の声で起こしてしまったようなものだ。 (…ホント、上手くいかねぇな…) 俺は内心、自分の大雑把さに自分で呆れていた。
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