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「よし、着いた!」
学校に着いて、俺はチャリを指定の場所に置きに行く。
美月は、キョロキョロと不安そうにしながら俺の後ろをついて来ている。
「……おし、んじゃあ行くか」
チャリを置いて、俺は美月に笑顔を向けた。
「…うん」
不安そうな美月の表情が、ほんの少しだけ、緩んだ気がした。
下駄箱に行き、ガタガタと音をたてて靴を履き替え、教室に向かう。
「ねぇ、朝日…どうして、わたしの靴…」
「あぁ、俺が移動しといた。こうやって、また美月のこと、連れてくる予定だったから」
俺は、ニヤっと意地の悪い笑みを浮かべて言った。
…ホントは2年になった時、担任が美月の靴をどうしようか悩んでいたから、とりあえず運んでおいたんだけど。
(また連れてくるつもりだったって言うのは、本当のことだしな)
「そう…なんだ。ありがとう、朝日…ふふっ」
美月が、俺の顔を見て少し驚いたような表情をして。
そして、可笑しそうに笑った。
「…へへっ」
漸く美月がまともに笑ったのが嬉しくて、俺も一緒に笑う。
嬉しすぎて、俺はちょっと調子に乗って。
早く教室で美月の全開の笑顔を見たくなって、気付いたら美月の手を引っ張っていた。
「え…っ?」
「え…あ。ご、ごめん!!」
軽く繋ぐようになっていた手を放して、俺はちょっと美月に背中を向けた。
(…まさか、こんなベタなことを俺がするなんて…しかも、更に超ベタなお互いのこの反応を見たら、会長達が喜ぶに決まってる!!)
そこまで考えて、ふと止まる。
俺が今、一番に考えるべきは、会長達に何を言われるかじゃなくて、美月に学校が楽しいところだと思い出させることだ。
「………」
(それなのに、俺……マジ何してんだよ…)
暫く沈黙しているかと思えば、急に落胆した俺を見て、美月は不安に思ったのか、小さく声を掛けてきた。
「あの…朝日?」
「あ、えっと……と、とりあえず教室行こうぜ!!」
「う、うん」
(ダメだ、美月を不安にさせないようにしなくちゃ)
深呼吸して、気を引き締める。
少し挙動不審になりつつも、何とか教室までの廊下を、美月と歩いて行った。
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