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【耳なし芳一】
何百年か前のこと、盲目の芳一という男がいた。
芳一は平家や源氏の物語を琵琶という楽器で弾き語りをするのが上手くて有名だった。
阿弥陀寺の住職は、芳一の演奏にひどく感激し、芳一に寺に住んではどうかと言い、芳一は喜んで申し出を受けた。
ある夏の日の夜のこと、住職は用事があり、芳一を残して寺を留守にした。
暑い晩だったので、芳一は涼もうと思い、縁側に出て座っていた。
すると、芳一に近づく足音が聞こえた。
足音の主は、芳一の前に立ち止まると、
「芳一!」
と名を呼んだ。
芳一は驚いて声が出なかったが、
「私は目が不自由だから、誰が私を呼んだのか分かりません」
と何とか答えた。
「怖がる事はない、私は殿様から用事を言いつけられてここに来た。 殿様が、お前の弾き語りを是非聞きたいと言っているのだ」
殿様からの命令に背く訳にはいかず、芳一は使いの者の後をついて行った。
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