4人が本棚に入れています
本棚に追加
暴かれた罪の断片が、暴かれた記憶の片鱗が、心の中で荒れ狂いながらも繋がり一つの物語へと変貌し、害虫が作物に群がるかのように精神を侵食していく。
胃が、重くなる。
そうだ、私は知っていた。私は気付いていた。自らの行いを。
それがもたらした業の意味を。
左手の赤が何を語るかを、私は知っていたのだ。繋がれた小指は、その事実を突き付ける。
胃が、重くなる。
丁度このくらいの灰皿ならば、神に背くことは容易い。それくらいの所業は、重量的にも可能だ。
いっときの感情の起伏ですら引き金となりうる。
ユメカは無言に微笑を重ね、私に訴える。その瞳が語り掛ける。
燐、と光を灯す、無垢なる双珠。
見ないでくれ。その透き通る眼差しで、私を見ないでくれ。
胃が、重イ。
君の視線が痛い。どうか、目を逸らしてくれ。無意識の深淵を見詰めないでくれ。
胃が、オモイ。
見るな、見るな! 見るな見るな! 見るなミルナミルナミルナミルナミルナっ……!
胃ガ、オモイ。
「見ないで、くれッ!」
イガ、オモイ──。
ユメカが透明に笑っている。滑稽な私を見て、笑っている。
沸騰した感情が、走り抜けた。
側にあった汚れた灰皿を、無我夢中で振り上げる。
椅子から立ち上がると、絡んでいた小指はあっさりとほどけた。
最初のコメントを投稿しよう!