4人が本棚に入れています
本棚に追加
私を見るのをやめないのなら、見られなくすればいい。
一度罪に濡れた灰皿が、私の傲慢なる意志により二度目の悪を描こうとした時、ざあっ、というさざ波のような音が聞こえた。
ざらざらと、引いては返す波打ち際の貝殻が、極小の石が擦れるような優しい音だ。
そして、堪えがたい激痛。
穏やかな印象を瞬時に裏切ったのは、胃の辺りを満たしている微細な重奏と神経を焼き貫くような苦痛。
灰皿を振り下ろすその寸前、痙攣に襲われた私が目にしたのは────蠢く虫のように腹から皮膚をブチブチブチブチと突き破って溢れる、赤い波に混じった無数の縫い針だった。
抱え切れなくなった私の嘘が、溢れ出す光景。
両膝を折り腕をついた床の上に、大量の縫い針やらまち針と私を満たしていたどす黒い血液が、しとどに降り注いで汚穢(オワイ)を広げた。
胃が痙攣し、ごぽっと鉄錆の吐瀉物が口腔内を満たし、眼下を染めた。
まるでリアリティを欠いた、しかしそれ故にあってはならない禍々しさを湛えた悪夢が、私の絶叫の萌芽すらも摘み取ってしまったようだった。
そして私は、白く赤い部屋の中で、再び意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!